鞄好きなら一度は憧れるダレスバッグ。重厚なフォルムに品の良い前錠、持って歩いたらカッコよいだろうな、と。
でも、実際に買うかというと、職場に持っていくにはちょっと目立ちすぎるとか、大きすぎるし、重すぎるので持って歩くのがしんどいとか、結局のところ、見る分には良いけど使うのは厳しいというのが正直なところです。
しかし、カッコいいだけの使いにくいバッグかというと違っていて、大きく開く口枠は中が見やすく物の出し入れもし易いので、その長所を生かしつつ、軽くしたり、ショルダーバッグやリュックスタイルで持てるソフトダレスみたいなもの少しずつ増えてきています。ただ、現代に即したダレスバッグではありますが、ダレスバッグから連想されるカッコよさは失われているので鞄好きからすると、それはちょっと違うんですよね。
一方、日常的に使えるサイズ感で重厚ではないけどカッコよさがある、細マチダレスはとても良いポジションにあると思うのですが、実用性とのバランス取りが難しく、使い難さが残れば、結局、持って歩かず、飾るなら重厚なダレスバッグの方が良い、となってしまいます。
私の理想とする細マチダレスって既製品としては存在しておらず、結局、オーダーメイドした訳です。このダレス、機能面ではほぼ私の理想なのですが、やはりどうにもならない部分はありました。
ダレスバッグって今どき売れる形ではないので作れる職人が少なく、まして、作ったダレスバッグが10年、20年と使われて問題点のフィードバックを受けて、完成度の高いものとなると、どうしてもベテラン職人に頼らざるを得ません。
一方、ベテランの職人さんになると、こちらの希望する革を扱っていないことが多いです。素材に関しては若手職人さんの方が柔軟。もちろん、縫製技術も素材研究もしっかりしている人もいますが、人気が高く、バックオーダーも多すぎて作ってもらえないです。
ダレスバッグ以外の鞄制作の経験が豊富なら、型紙されあればなんとかなるかな?とも考えましたが、職人さんのブログで制作時に想定していなかったトラブルが発生したことなんかを見たりすると、やはり経験が必要な形だよなぁ、と。
ところで、既製品の細マチダレスのどこに不満があるかというと、多くのものはコバで立つタイプです。手持ちの万双の天ファスナーブリーフケースが、やはりコバで立つタイプですが長く使うと形が崩れます。じゃぁ、底鋲なら良いかというと、フラットな面に底鋲があるというのは、ダレスとして色気が無いので却下(面倒な鞄マニア)。その結果、コバと底鋲の両方というオーダーにしました。
次に既製品にはショルダーストラップが付いていないことが不満です。実用性重視なモデルはついていますが、マニアが好む本格派は作る職人さんも拘りが強く、肩に掛けたり背負ったりすると折角のダレスの形が崩れるので付けることを嫌います。例えば、ル・ボナーさんの鞄なんかはショルダーバッグでなければ、まず、ショルダーストラップは付きません。
ダレスバッグは基本的に重いです。ル・ボナーさんの太ダレスは軽く作られていますが、それでも2kg。海外のダレスバッグは軽く3kgを超えるので、それに比べると軽い、という但し書きが付いての「軽い」です。細マチダレスなら1.5kg程度ですが、それでも軽い鞄ではなく、しかもコバで立つタイプなので、地面に置きたくない場面が多々あります。底がコバかつショルダーストラップ無し、という組み合わせが使い難さに拍車を掛けています。
そんな訳で、オーダーでは底鋲&ショルダーストラップとしました。
細マチダレスといえど、ダレスバッグなのである程度の迫力は欲しいです。カッチリした鞄に雰囲気を出すには、やはりしっかりと磨かれたコバが必要です。実用性重視のダレスバッグは、このあたりが欠けています。
既製の細マチダレスの使い勝手の悪いところは錠前。細マチは枠錠を使いにくいということもあって前錠タイプがほとんど。見た目としては前錠の方が良いのですが、使い勝手は圧倒的に枠錠タイプ。特にショルダーストラップとの組み合わせだと肩に掛けたまま、ボタン一つで鞄が大きく開き、中身が見れるのはとても使いやすいです。ただ、枠錠は選択肢が少ないので、気に入った形が見つからないことも。これもこのオーダーの妥協ポイントだったりします。
枠錠タイプは鞄の前面がシンプルすぎるのが欠点。とはいえ、工夫のしようはあります。
革をムラのあるオイルレザーとかブルームの浮かぶブライドルレザーにするとか、型押しレザーにすると何もない広い面もあまり気にならなくなります。サイドに肉盛りなんかを追加すると更に良いかも。コバの補強にもなりますし。
私の望んだ細マチダレスは素材や色といった部分ではなく、形自体存在しないものなのでオーダーメイドしましたが、この形は使いやすいと思うので既製品でも出てほしいんですよね。